マーラータンで慌ただしく昼食を済ませる中国の会社員には想像しにくいかもしれないが、欧州ではすでにマーラータン店で誕生日会や食事会を楽しむ人々が増えている。
ロンドンのチャイナタウンにある楊国福では、7~8人の欧州の若者が、湯気の立つマーラータンを囲みながらビールを飲み、ケーキを楽しむ。1回の食事で200ポンドを超えることもあり、今では珍しい光景ではない。ファストフードをまるでパーティーのように楽しむ姿は、子どもの頃にマクドナルドで誕生日会を開いた経験を思い起こさせる。
楊国福も、中国の外食ブランドが相次いで海外進出する流れに加わった。2022年初頭から現在までに、世界で約200店舗を展開している。
しかし、多くの海外進出企業とは異なり、楊国福は中国国内での競争激化を避け、成長余地を求めて海外へ進出したわけではない。2023年の新規加盟数は前年比で倍増しており、コロナ禍後、多くの若者が副業としてマーラータン店を開業したいと考えるようになったことも、その背景の一つだという。
「楊国福にとって海外進出は、楊興宇(ヤン・シンユー)が会長に就任して以降の重点戦略です」と、楊国福の欧州市場責任者である平俊杰氏は中国メディア「虎嗅」に語った。
2022年6月、楊興宇氏(愛称「船長」)が楊国福グループのCEOに就任し、海外事業を担当することになった。楊興宇氏は楊国福氏の息子でもある。海外におけるブランドのローカライズ、サプライチェーン、デジタル・インテリジェントシステムの構築などは、楊興宇氏が主に指揮する領域となっている。
欧州では日本のラーメンをベンチマーク
中国の外食ブランドが海外進出する際、最初の市場として選ばれることが多いのは、文化的・地理的に近い東南アジア、あるいは消費水準の高い米国だ。
一方、欧州全体の外食市場規模は8,400億ドルに達するものの、アジア料理の占める割合はわずか2~3%(168~252億ドル)にとどまる。楊国福のチームの試算によると、これまでマーラータンがアジア料理市場に占める割合は0.5~1%程度だった。
それでも楊国福は、欧州市場を海外展開における重要な拠点と位置付けている。
「米国から世界へ進出するのは、経済的な観点から見れば、上位市場から下位市場へと展開していくアプローチです。一方、欧州から世界へ進出する場合は、まず文化的なハードルの高い市場を攻略することになります。これによってブランド価値をより高い次元で証明し、文化的な付加価値を得ることができます」と平氏は説明する。
欧州における楊国福のポジショニングも、もはや低価格ブランドではない。
欧州のアジア料理を大きく4つのカテゴリー(日系、韓国系、東南アジア系、中華系)に分けた場合、楊国福がベンチマークとして選んだのは、その中でも文化的な存在感が強く、価格帯が高く、店舗数も多い日本のラーメンだった(ラーメンは日本食の中でも最大規模のカテゴリーであり、同じくスープを楽しむ料理でもある)。
楊国福の試算によると、日本のラーメンは欧州のアジア料理市場の約4~6%を占め、市場規模は約5~8億ドル、欧州全体の店舗数は約3,000店に達するとみられる。
こうした考え方から、楊国福が欧州で競合と見ているのはマーラータンブランドではなく、「Takumi」という日本のラーメンブランドだ。同ブランドの平均客単価は21~25ユーロで、現在欧州8カ国に進出し、約60店舗を展開している。
欧州における楊国福の平均客単価も20~25ユーロ(約180~200元)に設定されている。一方、マクドナルドやケンタッキー・フライド・チキンのセットメニューは約10ユーロだ。
「当社の店舗評価はすでにTakumiを上回っています。今後1~2年の目標は、店舗数と店舗当たりの売上高の両面で同ブランドを上回り、欧州のアジア料理市場を代表するチェーンブランドになることです」と平氏は語る。
欧州のマーラータン市場も競争激化
注目すべきは、楊国福の参入後、欧州のマーラータン市場でも競争が次第に激しくなっていることだ。
楊国福のチームによる試算では、現在、欧州には約600店舗のマーラータン店があり、市場全体の売上高は年間20~30%のペースで成長している。
マーラータン店が増えている背景には、現在の欧州における中華料理市場の発展段階も関係している。
マーラータンは熟練した料理人を必要としないカテゴリーであり、1店舗あたり6~7人のスタッフでも運営が可能だ。
一方、欧州の中華料理店の多くは、長年現地で暮らす華僑によって創業されたものだ。飲食業で生活基盤を築いた後、次世代には同じように大変な仕事をしてほしくないと考える経営者も多い。中華料理を調理できる熟練料理人は減少し、人件費も上昇している。こうした中、華人系の飲食店経営者は、標準化しやすく、人件費を抑えられる新たなビジネスモデルを求めている。
「2024年5~8月だけで、ベルリンには4~5店舗のマーラータン店が新たに登場しました。この1~2年で、欧州全体では数十店舗増えています」と平氏は語る。その中には、楊国福への加盟を希望したものの、加盟を断られた華人系経営者も少なくないという。
楊国福自身の出店ペースも加速している。欧州の店舗数は約50店舗(契約済みで内装工事中の店舗を含む)で、そのうちドイツが最大の市場となっており、約23店舗(営業開始済み11店舗)を展開している。中国国内と同様、これらの店舗のほとんどはフランチャイズ加盟店であり、欧州の直営店は1店舗のみとなっている。
楊国福によると、欧州における120~150平方メートル規模の一般店舗では、1店舗あたりの月間売上高は約8~10万ユーロ(初期投資額160~250万元、加盟費、内装費、初回のスープベース購入費などを含む)。一方、デュッセルドルフ店のような旗艦店では、月間売上高が約18~20万ユーロ、初期投資額は約400万元に達する。
楊国福の収益は主に、加盟店からの加盟費・サービス料、楊国福ブランドに関連する内装・販促資材、スープベースなどの商品の仕入れによって構成されている。
「欧州では、1店舗の加盟店から年間約40~50万元の収益が生まれており、欧州全体の年間売上高は約2,000~3,000万元(直営店を含む)です。海外事業全体の年間売上高はすでに1億元を超えています」と平氏は「虎嗅」に語った。
楊国福は欧州でどのような戦略を展開し、どのような課題に直面しているのか。以下は、「虎嗅」と楊国福欧州市場責任者・平俊杰氏との対話の全文である。
虎嗅:欧州における楊国福のターゲット顧客は誰ですか?
平俊杰:
楊国福の欧州市場における顧客層は、留学生中心から現地の消費者中心へと変化しています。
初期段階では留学生層を中心に市場を開拓しましたが、現在では店舗の現地顧客比率が60%を超え、一部店舗では80~90%に達しています。主な顧客は若年層で、各国の学生やオフィスワーカーが中心ですが、弁護士や医師などの中間層の顧客も少なくありません。
虎嗅:欧州における楊国福のブランドイメージや利用シーンはどのようなものですか?また、どのように現地の顧客を取り込んでいるのでしょうか?
平俊杰:
楊国福は欧州で、「マーラータン」に対する消費者の認識を新たに構築したいと考えています。欧州の人々は、マーラータンを単なるファストフードとは捉えていません。
そのポジショニングは「カジュアルな外食」に近いものです。価格はファストフード(約10ユーロ)より高い一方、一般的なレストランでの食事(40~50ユーロ)よりは手頃で、30年前に中国へ進出した当時のケンタッキーやマクドナルドに近いポジションです。私たちは、そこに「上質感」のある社交性と新鮮さを加えたいと考えています。
例えば、欧州の人々は楊国福で誕生日会や食事会を開き、数時間滞在し、1回の食事で200ポンド以上使うこともあります。スペインやドイツでは、ビールを飲みながらマーラータンを楽しむ人もいますが、中国国内ではほとんど見られない光景です。
虎嗅:具体的に、どのように社交性や新鮮さを演出しているのでしょうか?
平俊杰:
楊国福は「ライフスタイル」ブランドを目指しています。
欧州の人々は食事と社交、エンターテインメントを組み合わせて楽しむ傾向があります。そのため、ロンドンの旗艦店では地下1階をライブハウスのような空間に改装し、音楽ライブやスタンダップコメディなどを開催しています。また、銀行の旧支店を改装した別の店舗では、かつての地下金庫をカラオケルームに改装しました。
つまり、音楽や文化を融合させることで、楊国福をよりクールで若々しいブランドへと進化させ、新たな収益源も開拓したいと考えています。
虎嗅:欧州のサプライチェーンはどのように管理していますか?
平俊杰:
楊国福には自社工場があり、大規模生産を通じて世界約7,000店舗に商品を供給しています。今年下半期には欧州に前置倉庫を整備する予定で、一部の商品は現地で直接調達し、物流コストも削減していきます。
海外におけるサプライチェーン管理は大きな課題です。海外チームや安定した供給体制が整っていないブランドでは、加盟店が別の火鍋ブランドのスープベースを使ってマーラータンを提供するケースさえあります。このような状態では、ブランド管理が機能しているとはいえません。
虎嗅:欧州では、味について大きな調整を行っていますか?
平俊杰:
実際のところ、商品のローカライズは私たちにとって最も直接的な課題です。
欧州ではアレルギーの原因となる食品が非常に多く、店舗スタッフがこうした問題について個別に説明するほか、主要な原材料や成分表示を店内に掲示しています。
また、欧州では宗教的な食習慣が多様で、ベジタリアンも広く浸透しています。さらに、食品安全基準も非常に厳しく、特定の動物由来原料などに制限があります。そのため、私たちはスープベースのレシピを何度も改良してきました。
虎嗅:商品のローカライズ以外に、欧州でどのような課題に直面していますか?
平俊杰:
まず挙げられるのは、オペレーション管理の複雑さです。
欧州と聞くと、一つの地域のように感じるかもしれませんが、実際には40カ国以上があり、言語、政策、税制などがそれぞれ異なります。例えば、ドイツで取得した認証がフランスでは必ずしも使用できるとは限りません。こうした複雑な制度や規制は、チーム運営に大きな課題をもたらします。
また、欧州では物件の確保から内装工事までの期間が非常に長く、楊国福の店舗では物件選定から開業まで半年以上かかるのが一般的です。そのため、資金と運営スケジュールを高い精度で管理する必要があります。
そして、数ある課題の中でも最も深く、根本的なものは、文化を融合させることの難しさです。
欧州における複雑な宗教観、根強い食文化、国によって異なる言語の壁(例えばフランス人やドイツ人は英語をあまり好まない傾向)などは、文化を浸透させる上で乗り越えなければならない目に見えない障壁です。時には、一杯のマーラータンを売るというよりも、二つの文化が対話しているように感じることさえあります。
虎嗅:マーラータン市場の競争がますます激しくなっていることについて、どう考えていますか?
平俊杰:
加盟店の選定においては、同じ都市では原則として1つの加盟店に限定するようにしています。過度な競争を避けるとともに、内部でのリソースの消耗やブランド価値の低下を防ぐためです。その結果、加盟を希望する多くの華人系事業者を断ることにもなり、その中には独自に別のマーラータン店を開業し、結果的に競合となっているケースもあります。
競争の中で参入障壁を構築することはもちろん重要です。私が考える楊国福の主な競争力は、3つあります。
まずはブランドと文化です。
楊国福が海外展開を始めた当初、中国国内ですでにブランド認知度があったため、留学生の間では自然な口コミが生まれました。欧州市場に本格的に進出してからは、単に商品を販売するだけでなく、文化的なストーリーの発信にも力を入れています。例えば、マーラータンをテーマにしたフェスティバルを開催したり、各国の歴史と組み合わせた「スパイス・ストーリー」の動画を制作したりしています。こうした取り組みを通じて、欧州の人々に中国の物語を理解してもらいたいと考えています。
また、先ほど述べたサプライチェーン管理も重要な競争力です。
そしてもう一つが、現地化されたチームです。欧州チームはわずか7人ですが、欧州11カ国の運営を担当しています。採用する人材の多くは、就労ビザを持つ留学生や、家族とともに現地に定着している華人で、効率的なチーム運営につながっています。
虎嗅:今後の欧州における目標は何でしょうか?
平俊杰:
まずは欧州のアジア料理市場を代表するチェーンブランドとなり、Takumiを上回ることです。
また、欧州における私たちの戦略は、長期的な視点に立ったものでもあります。欧州の店舗物件の賃貸契約は通常5~10年、場合によってはそれ以上に及びます。楊国福のロンドン・チャイナタウン店も15年の契約を結んでいます。そのため、短期的な利益を追求するのではなく、長期的に事業を運営していくための能力と計画を持つことが求められています。

